2010年4月16日金曜日

治療の書

治療するの人 相手に不幸を見ず 悲しみを見ず 病を見ず。

ただ健康なる生くる力をのみ見るなり。

不幸に悩む人あるも、

そは不幸をのり越えざるが故也。

不幸といふも のり越えれば 不幸に非ず。

悲しみとて 苦しみとて

のり越えざるが故に悲しみ苦しみなれど、

のり越えれば悲しさに非ず 苦しさに非ず。

のり越えたる苦しさは楽しき也。

のり越えたる不幸は幸せ也。

のり越えたる失敗は成功の基也。

不幸あるも悲しさあるも 苦しさ辛さも

要すればのり越える力無きが故也。

のり越える力誘い導き、

その人の裡より喚び起こすは治療するものの為すこと也。

不幸も 苦しみも

力を喚び起こす者の前には存在してをらぬ也。


病も又同じ。

のり越える力導く者の前には 病も老いることも 又無き也。

あるはただ生命の溌剌とした自然の動きあるのみ。

その故に治療する者は生命を見て病を見ず、

活き活きとした働きを感じて苦しむを見ず。

苦しむを見 悲しむを見 病を見るは、

それをのり越える力を喚び起こすこと出来ぬ為也。


それをのり超える力喚び起す為には

治療するの人自身 何時如何なる場合に於いても 

自ら 之をのり越えざる可からず。

導くといふこと 

技によりて為すに非ず 言葉によりて為すに非ず。

ただのり越える力裡にありてのみ 

その力 相手に喚び起すこと出来る也


それ故治療する人の 

悲しさをもたず 苦しさを知らず 

病を知らず 不幸に悩むこと無く生く可き也。

常に楽々悠生きて

深く静かに息してゐる者のみ

治療といふこと為すを得る也。



治療の書 (1969年)


久しぶりに野口先生の「治療の書」を読みました。

野口先生の本はどれも素晴らしいのですが、

これは名著です。

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